バックキャスティングとは・意味
バックキャスティングとは?
バックキャスティング(Backcasting)とは、未来のあるべき姿から、現在にさかのぼって課題解決を考えるアプローチ方法を指す。1970年代に環境問題の解決などに使用されることで徐々に広まってきたと言われている。日本語では、バックキャスト手法とも呼ばれる。
バックキャスティングは、中長期的な視点で未来のあるべき姿を想定し、それを実現するための方法を考えていくアプローチであり、不確実性が高く正解が存在しない課題やテーマに対する解決策の検討に適している。
例えば、2015年に発表された持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までの持続可能な世界の実現に向けた17の目標を設定しており、バックキャスティングの思考にもとづいている。2030年までにSDGsを達成するために何をすべきかという視点で、様々なグローバルイニシアチブや、国・組織レベルの目標や施策が検討、推進されている。
このように環境・社会問題解決分野で比較的多く活用されているほか、指数関数的に進化するデジタル技術革新分野でもバックキャスティングアプローチは用いられている。
バックキャスティングの活用事例
バックキャスティングアプローチを経営戦略レベルで活用している事例として、タイルカーペットの世界トップシェアを持つ米国のインターフェイス社が挙げられる。
インターフェイス社の創業者であるレイ・アンダーソンは、事業活動が地球環境へ与える負荷を2020年までにゼロにするという壮大な全社目標「ミッション・ゼロ」を1994年に掲げた。当時、環境負荷ゼロは一見実現不可能なであり、実現するためには、製品開発、製造プロセス、オペレーションを含むビジネスモデル全体を抜本的に変革させていく必要があった。しかし、「ミッション・ゼロ」という明確な「未来のありたい姿」を設定することで、達成のためのあらゆる課題解決に全社をあげ、外部も巻き込んで多くのイノベーションと変革を生み出し、目標をほぼ達成している。
日本国内では、丸井グループの事例が挙げられる。
丸井グループでは2019年に、すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会を共につくるための道筋として、「ビジョン2050」を宣言。「ビジョン2050」の策定プロセスとして、2050年の未来をゴールとしたバックキャスティングアプローチを用いて、グループ社員、執行役員、有識者との対話を重ねながら、丸井グループのめざす未来を一緒に考えたとしている。また、策定された「ビジョン2050」の実現に向けて3つの主要なビジネス領域を定め、それぞれの領域で具体的なKPI(目標数値)を設定し、ビジネスを推進している。
バックキャスティングの応用、シナリオプランニング
バックキャスティングの考え方を応用しているアプローチとして、シナリオプランニングがあげられる。
シナリオプランニングとは、複数の中長期的な「起こり得る未来」の姿を描き、その分析の結果を戦略策定や意思決定の材料として活用する手法であり、多くの企業で活用されている。石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルは1960年代よりシナリオプランニングを実施しており、それによってオイルショックの危機に対応したことで知られている。
同社は定期的にシナリオを発表しており、2021年には、エネルギー変革シナリオ(The Energy Transformation Scenarios)として「Waves」「Islands」「Sky1.5」という3つの最新シナリオを発表した。2100年までの長期目線で複数シナリオを描いており、例えば「Sky1.5」は先進国で2050年までにネットゼロを達成し、パリ協定の1.5度目標を達成する未来を描いている。シェルは、これらシナリオプランニングの分析結果を、様々な意思決定に活用している。
まとめ
バックキャスティングアプローチは、現状を考慮せずにプランを組み立てるため、設定目標が実現不可能なものになりやすいというデメリットがある。しかし、持続可能性のために一刻も早い環境や社会問題の解決が叫ばれる現代では、バックキャスティングの考え方は私たちに最も必要とされているものなのではないだろうか。
【参考資料】Interface, Lessons for the Future: The Interface guide to changing your business to change the world,
【参考資料】The Natural Step, The Journey of a Lifetime
【参考資料】丸井グループ, ビジョン2050
【参考資料】Shell Global, THE ENERGY TRANSFORMATION SCENARIOS